名作漫画から学ぶ日本の間取りの変化!昭和20年~バブル期の戸建て住宅の変遷

住宅の間取りというものは、各時代ごとのライフスタイルによってかなり変わってきます。核家族化が進む近年では、部屋数を絞ってリビングを広くとったり、仕切りを無くして回遊性を高めるよな間取りをした住宅の人気が高くなっています。

こういった事情もあり、昔から長く続いている名作ホームアニメを見ている時には、現代との間取りの違いについて不思議に思ってしまうこともあるのではないでしょうか?間取りのトレンドは、その時代のライフスタイルを表している部分もあり、時代ごとの間取りを良く調べてみると、その時代の家族がどのような生活をしていたのかもなんとなく見えてくるのです。

そこでこの記事では、昭和が舞台となっている超名作アニメ『サザエさん』『ちびまる子ちゃん』『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』の4つについて、それぞれの主人公の家の間取りを解説してみたいと思います。

昭和20年代…サザエさん

それではまず、国民的ホームアニメと言っても過言ではない『サザエさん』家の間取りからです。サザエさんは、令和になった現在でも日曜夕方の定番番組になっており、昭和の家族の生活を現在に伝える稀有なアニメになっています。このサザエさんは、なんと昭和21年に連載がスタートしているほどの長寿マンガで、アニメの放送だけでも昭和44年にスタートしているなど、50年以上の歴史があるのです。

上の画像がサザエさん家の間取りなのですが、現在の新築業界ではあまり見られない間取りですね。特に2世帯住宅を検討している方からすれば、3世代2家族が住む間取りとしては「とても狭い…」と感じてしまうような間取りになっています。
サザエさん家の間取りに関しては、マンションの間取りで最もよく見かける『田の字型プラン』と呼ばれる間取りなのですが、サザエさん家は和室が多いのも特徴的です。田の字型プランは、玄関を入ってすぐに奥にまっすぐ伸びる廊下があり、その両サイドに1部屋ずつ部屋を配置し、突き当りにLDK+もう一部屋といった感じの間取りが一般的です。この田の字型プランは、必要に応じて部屋の大きさを変えることができるということが特徴です。現在では、廊下の両サイドには洋室が配置されるのですが、昭和20年代のサザエさん家の場合は、和室になっています。

日本では、古くから部屋として空間を仕切るのではなく、『間』という形の仕切り方をして住まいを構成してきました。和室の場合であれば、部屋の使い勝手を固定化しませんので、必要に応じて空間を使い分けることができるのです。例えば、現在でも地方の和室が多い住宅では、人が多く集まる際にはふすまを外して空間を広くする…といった使い方をしているのをよく見かけますね。家族のプライバシーを確保しにくいというデメリットがあるのも確かですが、小さな家でも柔軟に、広く使えるという知恵なのです。

サザエさん家は、昭和20年代の住宅としては最も一般的な間取りだと言われています。家長である波平の部屋と客間を日当たりの良い南側に配置し、子供の個室や家族の団らんの場である茶の間は北側に配置されています。なお、アニメにもよく登場する庭側の廊下(広縁)は、別名表廊下などとも呼ばれ、この時代にはお客様専用の廊下として利用されていました。現在ではあまり見かけないかもしれませんね。また、この時代の特徴的な部屋は『茶の間』で、玄関から「ただいま」という声がきちんと届くような場所に配置され、家族の団らんがとりやすく楽しく暮らしていくため、非常に重要な部屋だったのではないかと考えられます。

この時代は、家族のプライバシーを守るというよりは、家族の和や絆といったものを自然と育めるような工夫が間取りに取り込まれているのかもしれませんね。

昭和30年代…ちびまる子ちゃん

次は、サザエさんと並ぶ日曜日の国民的アニメ『ちびまる子ちゃん』です。ちびまる子ちゃんも非常に歴史あるアニメで、昭和30~40年代ごろの静岡県清水市を舞台にした『さくらももこ(相性:まる子)』を主人公としたアニメとなっています。
まる子家の間取りは以下のようになっています。

まる子家は、父親「ひろし」の両親と同居しており、総勢6人家族が上図の間取りで暮らしています。この間取りは、典型的な『中廊下型住居』で、中心に廊下を配置した間取りとなっています。この間取りは、明治時代半ばに登場し、昭和初期にかけて広く普及した住宅の形となります。

『中廊下型住居』は、中央に長い廊下を配置し、南側は居間や客間、家族の居室などを配置し、北側に台所やお風呂などの水回り、古くは使用人の部屋などを配置するのが特徴です。この間取りは、戦前の家長制度がまだ強い時代の名残があり、家族の中で最もえらい『家長』、続いて家族の序列によって部屋の位置が決まっていくなど、封建的な時代の間取りとなっているのす。
したがって、時代が時代なら、アニメの中の「ひろしとすみれの部屋」というものは、本来女中などの部屋として使用されるべきもので、家長であるひろしの部屋としては適切ではないのです。もちろん、アニメの世界ですし、昭和30~40年代の話ですので、そこまで封建的な制度に則るようなことはなく、子供たち(ももことさきこ)の部屋を重要視してこの配置になっているのでしょう。

上記のような事を考えると、まる子家は昭和初期に建設され、キッチンやお風呂、トイレなどをリフォームしながら暮らしていたと考えられるかもしれませんね。この間取りでは、両親の部屋が薄暗くなってしまいますし、狭い和室に無理やりまる子とお姉ちゃんの机を配置して子供部屋として使っていますので、時代の変化に対応しきれていない間取りと言えるかもしれません。

昭和40年代…ドラえもん

次は、サザエさん、ちびまる子ちゃんと並ぶ国民的アニメ『ドラえもん』です。ドラえもんは、1969年(昭和44年)に原作マンガがスタートしており、テレビアニメは1973年(昭和48年)から放送が始まりました。このアニメの舞台は、昭和40年代の高度成長期時代真っ只中で、何をやってもダメな奴と揶揄されるのび太のもとに未来から青いあいつがやってきたのです。

何はともあれ、ドラえもんがのび太と暮らす野比家の間取りを見てみましょう。

サザエ家、まる子家との大きな違いは、2階建ての住宅になっているということでしょう。作中は、高度成長期真っ只中で、まさにサラリーマンが夢見るマイホームの代表と言って良いような間取りをしています。
アニメの中ではあまり登場しませんが、玄関横には応接室があるのです。そして、この時代は、主な居室が和室が中心になっているというのも時代を良く感じることができます。最近では、床の間はおろか和室さえ存在しない住宅も増えています。

ドラえもんでは、ほとんどの事件が外で起こりますので、野比家が家の中でどう暮らしているのかの描写がほとんどありません。そのため、この間取りを見ても、2階ののび太の部屋の横にある和室や応接室の使用意図が良くわかりません。また、DKも通常の住宅よりも少し狭く感じるため、個人的にはこの家族の暮らしぶりには、あまりあっていない間取りになってしまっているのではないかと考えられます。

バブル期…クレヨンしんちゃん

最後は、日本のバブル期が舞台のクレヨンしんちゃんです。上で紹介したサザエさんやちびまる子ちゃん、ドラえもんと比較すると、まだまだ新しいアニメで『日本の国民的アニメ』と表現するには少し弱いかもしれませんが、筆者の感覚ではこれも十分な国民的なアニメです。クレヨンしんちゃんは、1990年に連載がスタートしており、アニメ化は1992年です。当時の日本は、ちょうどバブルが弾けたとされる時代なのですが、作中はちょうどバブル期の後半になるのではないかと考えられます。クレヨンしんちゃん家は、東京のベッドタウンになる埼玉県春日部市が舞台で、都内までの通勤時間が約50分圏内と、この時代の典型的なサラリーマン家庭が舞台となっています。

しんちゃん家は、4LDKの一戸建てで、典型的な建売住宅の間取りになっています。

上図のように、1階部分は「2部屋+DK+水回り」、2階部分に2部屋あるという間取りです。しんちゃん家の間取りでは、本来のみさえ(しんちゃんの母)の寝室は2階にあるのですが、作中の描写では1階部分の客間を使って家族全員で就寝するようになっています。これは、しんちゃんも幼稚園児ですし、妹のひまわりに至ってはまだ赤ちゃんということもあり、2階を寝室にするよりは1階の和室を使った方が利便性が良いということでしょう。現実世界でもこういった部屋の使い方はよく見かけられますし、やはり現代の私たちが暮らす住宅の間取りに近づいているという印象を受けますね。

作中のしんちゃん家は、典型的な建売住宅の間取りで、購入者のライフスタイルに合わせたセールストークが非常にしやすい形となっています。例えば、この家を購入した時点では「夫婦と子供一人」という家族構成であったため、2階洋室を子供部屋に、2階和室を主寝室にして、1階部分は客間と居間にするという部屋割りが可能です。数年たって、子供が増えて成長した時には、2階の2部屋を子供部屋として、1階の和室を主寝室にすることができます。
このように、しんちゃん家は、現代でも非常に模範的な建売住宅の間取りになっていると言えるのです。

まとめ

今回は、「名作漫画から学ぶ日本の間取りの変化!」と題しまして、誰もが知っている日本の国民的アニメに登場する主人公の家の間取りをご紹介しました。普段何気なくアニメを見ている時には何も思わないのでしょうが、こうやって間取りを見比べてみると、家の作りが現在とは全く異なるということがわかります。

そもそも、現在の日本では、核家族化がどんどん進んでおり、サザエさんやちびまる子ちゃんのように、親世代と同居しているというかた自体が減少しています。そのため、自分が住む家の間取りを決める時には、昭和20年代や30年代を舞台としたアニメとは全く違う視点になっているのです。

もちろん、どちらが正しいというわけではありませんので、今後自分の家を建てる時には、古い家の間取りが何の使用意図で考えられたのかも少し気にしても良いかもしれませんね。