戸建てでも人気になっている『全館空調』!通常のエアコン利用と比較した場合のメリット・デメリット

近年では、オフィスビルなどでは当たり前の『全館空調』が戸建住宅でも注目されています。実際に、大手ハウスメーカーなどでは、2019年頃より全館空調をかなりお勧めするようになっており、新築購入の打ち合わせなどに行った際には、営業担当者から全館空調を激押しされ、「本当に良いものなのだろうか?」と少し心を動かされた…という方も多いのではないでしょうか。

ちなみに、戸建て住宅に全館空調が導入され始めたころは、メリットよりもデメリットの方がかなり多かったと言われており、全館空調にかなり悪いイメージを持っているという方も多いです。しかし、近年導入されている全館空調システムに関しては、以前からあったデメリットが補われ、劇的に進化していると言われるようになっています。

そこでこの記事では、これから新築戸建て住宅の購入を検討している方のため、全館空調のメリットとデメリットを簡単にご紹介していきたいと思います。展示会で、営業マンに全館空調を進められたけど、デメリット面も知りたい…、全館空調に惹かれているけど、少し不安もある…という方は是非参考にしてみてください。

全館空調のメリット

それではまず、全館空調のメリット面からみていきましょう。

メリット① 一年中快適な空間を保ってくれる

全館空調を取り入れることの最大のメリットがこれですね。全館空調は、24時間365日、全ての部屋の気温が一定になっており、どこにいても快適に過ごせるという非常に大きなメリットがあります。真冬や真夏などでも、玄関を入れば、すぐに快適な温度になるというのは、後述するデメリット面を補って余るほどのメリットと考える方も多いです。全館空調を取り入れた戸建て住宅に住んだ方の声をいくつか取り上げてみましょう。

  • 小さな子供やペットのための温度管理を気にしなくて良くなった!
  • 家の中では、ドアの開け閉めを気にする必要がなく、ストレスがなくなった
  • キッチンでの調理も快適
  • 寒い真冬でも、起きたらすぐに布団を出られるようになった

このように、全館空調を取り入れた場合、体感的な快適さはもちろん、生活上のストレス軽減などのメリットも得られるようです。

ただし、部屋ごとの調整が出来ない(しにくい)全館空調の場合、高気密・高断熱を実現している家でも、各部屋ごとの室温にムラが生じてしまう場合があります。例えば、真冬などは、日光が多く入る南側の部屋と日が入りにくい北側の部屋では、2~3度程度の温度差が発生してしまうことが多いなど、全館空調は絶対というわけではないと覚えておきましょう。

メリット② ヒートショック防止に有効

全館空調のメリットとして有名なのが、家中の温度が一定に保たれていることから、ヒートショックを予防できるという点です。ヒートショックは、寒い冬の季節などにお風呂に入る際、脱衣所や浴室、浴槽での温度差が非常に大きいことから、血圧が急に上昇してしまうことで起こる症状です。

実は、日本国内では、65歳以上の方がヒートショックで亡くなってしまう…というケースが非常に多いと言われており、ヒートショックによる死亡者数は日本が世界一だと言われています。つまり、家中の温度を一定に保ち、ヒートショックを防げるというのは、非常に大きなメリットになります。

さらに、若い人にとっても、自然と快適な環境を作ってくれることから、猛暑化している日本の夏でも熱中症を予防できると言われています。

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メリット③ 開放感のある間取りが作りやすい

全館空調は、家を作る際に間仕切りや室内ドアなどの建具を少なくしても問題ないという点もメリットの一つです。通常のエアコンを利用する場合、冷暖房効率が落ちないように、リビングと廊下や階段前のホールとの間にドアを設けて、暖気や冷気が逃げなくするものです。しかし、全館空調の場合、どの部屋も一定の温度を保っているわけですので、こういった間仕切りやドアが必要なくなるのです。

もちろん、耐震性を確保するためには、ある程度の壁は設けておかなければならないのですが、それでも各部屋でエアコンを利用することを考えれば、開放感のある間取りを実現しやすいです。特に、狭小地などで、広い空間の部屋が欲しいなどという場合には非常に有効になると思います。

全館空調は、吹き抜けとの相性が非常に良いとされていますので、吹き抜けのあるリビングが夢…という方にはオススメかもしれませんね。

メリット④ 壁掛けエアコンや室外機が少ないので、家がすっきり

全館空調も、メーカーによって形状やシステムはさまざまです。そして中には、各居室に吹き出し口が設置されるだけで、壁掛けのエアコン本体などがなくなるので、室内がすっきりした見た目になります。室内空間は、エアコン本体がなくなるだけで、想像以上に広く感じられるようになるので、意外に大きなメリットになります。

さらに、一般的な戸建住宅を考えた場合、3~5台のエアコンを設置する事が一般的なのですが、そうなると建物外にその分の室外機を設置しなければならず、どうしても見た目が悪くなってしまいます。さらに、室外機の設置場所や置き方に困ってしまう…なんてことも多いです。これが、最近の全館空調の場合、室外機が小型化されていますので、建物外もすっきりします。

注意点としては、導入する全館空調の種類によっては、家のどこかに大型機械を設置しなければならないので、意外にスペースをとられてしまい間取りに制限がかかるケースがあるという点です。ものによっても、天井や床下に格納できますので、そういったタイプを選択すれば、特に気にならないと思います。もう一つの注意点は、家中に空調を効かせるため、ダクトを納める必要があるので、部分的に天井が下がったり壁が出たりするケースがあります。

メリット⑤ 空気が綺麗になる

メーカーによっては、この部分を非常に大きなメリットとして、前面に押し出している場合もあります。厳密には、全館空調があるおかげで空気が綺麗になっているわけではありません。

全館空調を推しているほとんどのハウスメーカーは、機械で吸気・排気をする「第一種換気」を採用しています。そして、空気の吸気口に高性能フィルターを設置していることで、全館空調を作動させれば、花粉やホコリ、PM2.5などをフィルターがカットしてくれるようになるわけです。この構造から、「全館空調を導入すると空気が綺麗!」と言われるのです。

全館空調のデメリット

全館空調の導入に迷っている方が最も知りたいのはメリット面ではなく、「どんなデメリットがあるのだろうか?」という点でしょう。数年前までの全館空調については、まだまだデメリット面も大きく、導入する住戸はそこまで多くないというのは実情だったと言われています。しかし、どのメーカーも今までにあったデメリット面を解消するための開発を進めており、年々全館空調の導入率は高まっていると言われています。実際に、全館空調を推している大手ハウスメーカーの中には、新築住宅の半数以上は全館空調を導入していると紹介しているような場合もあります。

それでは、全館空調に存在するデメリットとはどのようなものなのでしょうか?ここでは、いくつかのデメリットと、そのデメリット解消への動きを合わせてご紹介しておきます。

デメリット① 初期コスト、維持コストが高い

全館空調の非常に大きなデメリットと言われているのが、導入コストがそれなりに高いうえ、維持・メンテナンスコストまで高額…という点です。一般的に、全館空調の導入コストは、200~300万円程度と言われており、エアコンを複数設置する場合と考えても、破格の高さになっています。

維持コストに関しては、年間の保守費用として5万円程度かかるメーカーがあったり、半年から1年程度でフィルター交換が必要で、そのたびに費用がかかったりします。もちろん、故障などの際は、その都度修理費がかかります。

近年では、家自体が高気密・高断熱化していますので、全館空調自体のパワーが少なく済むようになっています。さらに、建物の換気性能が高くなっていることから、熱の循環効率が良くなっているなどの理由で、従来よりも導入、維持にかかるコストが下がっていると言われています。特に、以下に紹介する2社の全館空調は、導入コストが100万円前後と、大幅な低コスト化を実現しています。

> ヤマト住建「YUCACO」
> 桧家住宅「Z空調」

デメリット② 光熱費の問題

全館空調は、光熱費が高くなってしまう…という点も、非常に大きなデメリットです。

一昔前の全館空調であれば、35坪程度で4人家族が住む程度の大きさで、月々の電気代が2~3万円以上になるのが当たり前と言われており、家計に非常に大きな負担になってしまうとされていました。実際に、その時代に全館空調について調べてみると、「全館空調を導入して後悔した…」なんて情報がたくさん出てきていました。

この問題に関しては、家自体が高気密・高断熱化していることで、かなり変わってきていると言われています。全館空調システムの中には、床下の地熱を利用したり、ヒートポンプ式で大気中の熱を有効活用するようなシステムが登場していることから、現在では、各居室でエアコンを使うのと同程度の電気代になるものが多くなっています。光熱費削減が考えられた全館空調は以下のようなタイプです。

> セキスイハイム「快適エアリー」
> パナソニックホームズ「エアロハス」
> 三井ホーム「スマートブリーズ」

デメリット③ 部屋ごとに温度調節ができない

全館空調のデメリットとしては、各部屋ごとに適切な温度に設定することができない…という点を挙げる方も多いです。

基本的に、全館一括管理となるため、家中の部屋が同じ温度帯になると考えましょう。例えば、誰もいない部屋を節約のために空調を切るなんて概念がありませんし、熱がりな子供のために子供部屋だけ温度を下げるなんてこともできません。
戸建ての全館空調システムは、日当たりが良い部屋は温度が上昇してしまう…など、自然現象による温度差が生じることがあるものの、各部屋の温度を細かく設定できないというのが一般的です。ただし、下のタイプは、多少の温度調節ができるようになっています。

> パナソニックホームズ「エアロハス」
> 三菱地所ホーム「エアロテック」

デメリット④ 室内が乾燥する

これは一方的なデメリットとまでは言えないのですが、人によっては嫌がる方もいます。そもそも、高気密化している近年の住宅は、全館空調に限らず、冬場の乾燥が強くなるため、リビングなどの人が長く滞在する場所は加湿器が必須です。ただし、全館空調を導入すると、冬場の乾燥がさらにひどくなりますので、注意が必要です。

なお、湿気が多い夏場に関しては、洗濯物が乾きやすくなるという点はメリットですし、そもそも家を長持ちさせることを考えると、「乾燥している」ということはメリットにもなるので、加湿器などで調整すればそこまで気にする必要はないと思います。

さらに最近では、加湿機能が搭載された全館空調も登場していますので、乾燥のし過ぎはちょっと…という方は、そういったタイプを導入すれば良いのではないでしょうか。

デメリット⑤ 故障時のダメージが大きい

意外と見落とされがちなのですが、全館空調は故障してしまうと全部屋で空調が効かなくなる…という致命的なデメリットが存在します。もちろん、そこまで頻繁に故障が起こるようなことはありませんが、空調設備が欠かせない真夏や真冬に故障した場合、日常生活がかなり苦痛になると思います。全館空調は、全部屋一括管理ですので、全ての部屋が暑いor寒いとなるので、故障は生活に大きな支障をきたしてしまいます。

こういった事を防ぐために、定期的なメンテナンスが重要とされており、メーカーの中には上述したような維持コストを支払ってもらい、メンテナンスを行うことにしているわけですね。ただし、どれだけメンテナンスをしていようと、絶対に故障させない…なんてことは不可能ですので、「真夏(真冬)に空調なしで過ごさなければならない…」なんてリスクが常に存在することになると考えてください。

なお、全館空調の中には、1階と2階に1台ずつを設置するなど、2台以上の本体を使用するタイプも存在します。こういったタイプであれば、仮に1台が故障しても、残りの1台で完全ではないにしても家全体に空調を効かせる事ができます。

まとめ

今回は、戸建て住宅での導入率が年々高くなっていると言われてる全館空調のメリットとデメリットをご紹介してきました。この記事でご紹介してきたように、もともとあった全館空調のデメリットが、メーカーの頑張りによってかなり改善されてきているというのが導入率が高くなってきた理由だと思います。

正直な話、3、4年前までの全館空調であれば、あまりオススメできない…と言った意見の方が多かったのですが、導入コストや維持コスト、光熱費も削減できるようになってきた近年では、一考の余地はあるのではないかと考えらる設備になってきたと思います。ただし、まだまだ開発途上の設備ではあると思いますし、絶対に導入すべきかというと、そうでもないのが実情ですね。

最近では、エアコンの本体価格や光熱費がかなり下がってきていますし、必要な場所で適切な温度管理ができるという点はエアコンの魅力になると思います。なお、仕切りやドアを減らして開放感のある家を作りたいと考えている方にとっては、全館空調は非常に魅力的な設備と言えます。