相続登記が義務化へ!不動産を相続した時に登記しないと何の問題があるの?

2021年4月に「相続登記を義務化する改正案」が閣議決定され、2024年を目途に施行される予定になっているのはご存知でしょうか?

こう聞かれると「そもそも相続登記って何?」と言った感じで、根本的な部分が良く分からない…という方も多いことでしょう。日本では、不動産を相続した場合、当該不動産の名義を亡くなった人から相続した人に名義変更する必要があるのですが、これが相続登記と呼ばれます。従来の法律では「相続登記は当事者の任意」に任されていることから、日本全国には名義変更がなされないまま長年放置されてしまっている土地がどんどん増加してしまい、これが社会問題になっているのです。
不動産の名義変更がなされなければ、「誰が所有者なのか不明」な状態になってしまい、民間企業がその土地を活用したり、自治体が災害対策をしようと思っても所有者に連絡が付かないことから、何もできなくなってしまう…という問題が生じています。現在の日本では、こういった「所有者が判明しない」もしくは「判明しても所有者に連絡がつかない土地」がなんと410万haを上回っているとされており、これは九州地方が丸々入るほどの土地面積なのです。さらに、このままの状況が続けば2040年には所有者不明の土地が720万haに達するという予測が立っているなど、多くの日本の国土が利活用できなくなってしまう状況なのです。

こういった事もあり、今回の法改正により「相続登記を義務化する」ということが決まりました。そこでこの記事では、改正法施行後、どのような変更があるのか、またそもそも相続登記をしないと何が問題になるのかを解説していきます。

参考:所有者不明土地の実態把握の状況について

相続登記が義務化による変更点について

それでは「相続登記を義務化する改正案」施行後、不動産を相続した際の変更点をご紹介していきます。今回の法改正では、罰則も規定されましたのでしっかりと押さえておきましょう。

3年以内の相続登記が義務に

まず大きな変更点となるのが、従来の法律では「当事者の任意」に任されていた相続登記が義務化されるということです。相続人は、相続や遺贈で不動産を取得したと知った日から「3年以内に相続登記の申請をする」ということが義務となります。これを怠った場合には、10万円以下の過料という罰則も用意されています。なお、これに伴い、今までは相続人全員で相続登記すべきとされていたものが、登記申請を促進するため、単独で申請することができると修正されています。

なお相続が発生した時に、相続開始から3年以内に遺産分割協議が完了しないという場合、相続登記ができません。この時には、以下の対処をすれば、一時的に過料を免れることができます。

  • 法定相続分による相続登記をする
  • 相続人であることを期間内に法務局に申請する

遺産分割協議がまとまり、不動産を取得した際には、その日から相続登記をしなければ過料の対象になるので、その辺りは注意してください。

氏名・住所の変更登記も義務化へ

相続登記が義務化され、きちんと相続登記したとしても、その後、所有者の住所や氏名が変更になり、その届出が無ければ所有者不明になってしまう可能性があります。したがって、このような状況を防止するため、相続登記の義務に合わせて「住所や氏名の変更登記」も義務化されることになっています。

この部分は、不動産の所有者である個人または法人の氏名(名称)や住所(本店)に変更があった際、その日から2年以内に変更登記することとされています。これを怠った場合、5万円以下の過料という罰則が用意されています。

法務局による所有者情報取得の仕組みが制定される

今回の法律施行後は、個人が新たに不動産登記を行う場合、生年月日などの情報を法務局に提供されることが義務化されます。また法人の場合は、住基ネットなどから所有者の氏名や住所が変わったことを法務局が認識したとき、職権で変更登記ができるようになります。

これは「所有者不明土地の発生を予防する方策」とされており、住民基本台帳ネットワークシステムや商業・法人登記システムから所有者情報が変更されたことがわかるようにして、法務局が変更登記をできるようにする仕組みです。

土地の所有権放棄を制度化

最後は「相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により取得した土地を手放して、国庫に帰属させることを可能とする制度を創設する。」というものです。

相続する不動産の中には、手に入れたとしても売却が難しい土地や利活用が難しいと考えられるような土地も存在します。このような土地を相続した場合、所有権を簡単に放棄することができず、固定資産税だけ支払っていかなければならない…なんて状況になってしまいます。

現状の法律では、相続放棄をすることで土地を取得しないという選択ができるのですが、相続放棄の場合は、土地だけを放棄することができず、その他の現金などの遺産も放棄しなければいけません。したがって、他に相続したい遺産があれば土地の相続放棄のみをすることができないという制度になっているわけです。これが今回の法改正によって、不用な土地だけの所有権を放棄することが認められ、他の遺産は受け取るという選択がとれるようになります。

なお、何でもかんでも土地の所有権を手放せるというわけではなく、一定の要件を満たしている必要があります。

参考:所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し

相続登記を放置するリスクとは?

今回の法改正により、不動産を相続した場合には、3年以内に相続登記することが義務となります。よって、これを怠ってしまうと「10万円以下の過料を科せられる」というリスクがあるということは誰もが理解できると思います。
しかし、相続登記の放置は、過料を受けてしまうということ以外にもさまざまなリスクが存在します。ここでは、相続登記をせずに放置してしまった場合に考えられるリスクをご紹介していきます。

相続人がどんどん増加していく

相続登記を放置してしまった場合、相続する前の名義人のままになってしまいます。そしてその状態のまま時間が経過していくと、どんどん相続人が増加していってしまうのです。

例えば、最初は「4人の子供だけで話し合えば良い」という問題だったものが、世代をまたいでいくと、数十人以上の人間が相続人になってしまい、相続の話し合いがもつれにもつれてしまう…なんて恐れがあるのです。
一般的に、相続登記する前には、遺産分割協議によって相続人全員で「誰の名義の不動産にするのか?」を話し合うものです。数人程度で話し合うだけならすんなりことが進みますが、相続人が増えてしまうと、全員の合意を貰わなければならないことから、遺産分割協議がなかなか進まない…なんてことになるわけです。世代をまたいでしまうと、関係性の薄い親戚もいて、連絡を取り付けることすら困難になってしまう…なんてことも考えられます。

相続登記の放置は、どんどん話をややこしくしますので、上記のように相続人が増えてしまう前に相続登記ができるように早く動きましょう。

相続人が認知症になってしまうと遺産分割協議が難航する

相続人の中に、高齢で認知症などが発症してしまい、判断能力が低下したという場合、その状態で遺産分割協議をしても法律上無効になってしまいます。少子高齢化が進む日本では、こういった問題で土地を売りたくても売れない…なんて状況に陥ってしまう方も珍しくありません。

例えば、父がなくなり、家は長男が引き継いで住んでいたという場合を考えてみましょう。このような時に、相続登記をせずに亡くなった父の名義のまま放置していたという場合、数年後にその家を売却しようと思って相続登記が必要になった時、相続人である母が認知症になってしまっているというケースです。
このような場合、相続登記をするには、相続人全員で遺産分割協議をしなければならないのですが、母が認知症を患っていれば、「成年後見人の選任」などをしなければいけません。母が元気なうちに相続登記していれば、このような段階を踏む必要はないのですが、相続登記を放置した結果、司法書士などの専門家に依頼して成年後見人の選任申し立ての手続きを最初にする必要があるのです。なお、この手続きは数カ月程度の時間がかかりますし、費用もそれなりにかかってしまいます。さらに、成年後見人の申請を行ったとしても、裁判所の判断で不動産の活用ができなくなるような決断が下されるようなリスクもあります。

他にも、相続人の一部が行方不明になってしまっている…という場合も、遺産分割協議のために別の手続きをしなければいけません。このように、いざ不動産を活用しようと思った時、即座に動けなくなる可能性がありますので、遺産分割協議や相続登記はできるだけ早く行っておくべきです。

名義変更ができなくなるかも

相続登記をする際には、「相続があったこと」を証明するための公的書類を用意しなければいけません。『公的書類』は好きな時に役所に申請すれば貰えると考えている方が多いのですが、実は保存期間が定められていて、永遠に取得できるような物でもないのです。

つまり、相続登記を放置していて、ある日必要になったからと公的書類を集め始めてみると、手遅れになっていた…なんてリスクがあります。相続登記に必要になりそうな書類の保存期間は以下のようになっています。

  • 戸籍(除籍) ⇒ 150年
  • 住民票の除票 ⇒ 5年
  • 除籍の附票 ⇒ 5年
  • 改製原戸籍の附票 ⇒ 5年

役所によっては、保存期間が過ぎている場合でも、少しの間であれば破棄していないという場合もあるでしょうが、確実に保管されているという保証などありません。相続登記を放置している間に、「自分の不動産なのに名義変更ができない」という最悪の事態に陥ってしまう可能性があるので注意しましょう。

まとめ

今回は、2024年を目途に施行されることになっている「相続登記を義務化する改正案」の基礎知識をご紹介してきました。この法律は、少子高齢化が進む日本で、「所有者が判明しない」もしくは「判明しても所有者に連絡がつかない土地」というものが年々増加していることが問題視され改正されることに決まったものです。

「別に所有者がわからなくても良いのでは?」と考えてしまうような人もいますが、国や自治体も、土地の所有者に無断でその土地に何らかの手を加えるなんてことはできません。日本は、地震や台風などの自然災害が多い国としてとして有名ですが、最近ではこれに加えて集中豪雨による水害なども毎年のように発生するようになっています。そして、国や自治体は、そういった災害から国民を守るためにさまざまな対策を打ちたいと考えているものの、土地の所有者が判明しなければそれもできない…という状況な訳ですね。他にも、自然災害で何らかの被害があった場合でも、そのまま放置され続けて、周辺住宅に悪影響を与えているという所有者不明土地も問題視されています。

こういった事から、相続を知った日から3年以内に相続登記をしなければいけないということが近々義務化されるわけです。なお、この法律は「遡及適用」となっており、過去の相続も相続登記の義務化の対象となっていますので注意してください。